金属合金の凝固では、液相中にデンドライトと呼ばれる樹枝状の固相(結晶)が成長します。
このデンドライトが成長するとき、合金の各成分が液相と固相の等しく分配(配分)されることは例外的であり、どちらかの相に優先的に分配されます。
したがって、凝固過程においてデンドライト周辺の液相の組成は合金のもともとの組成と異なります。
例えば、Sn濃度が高いSn-Bi合金(スズにビスマスを添加した合金)では、Sn濃度の高いデンドライト(固相)が成長するとともに液相のBi濃度が増加します。
もしBi濃度の高い液相がどこかに移動して集積すると凝固後にはBi濃度が高くなり、組成の不均一が生じます。このような濃度の不均一はマクロ偏析と呼ばれています。
材料の特性は組成に依存しますので、マクロ偏析は致命的な欠陥となり、多くの努力を費やして製造した材料を台無しにすることさえあります。
そのため、なぜマクロ偏析が起こるか?どのすればマクロ偏析を抑えることができるか?これらの問いに答える学問が必要になります。
マクロ偏析ができる原因の一つに、凝固している過程での液相の移動(流動)があります。
温度と濃度により変化する液相の密度は、凝固しているとき、つまり、温度と濃度に不均一が生じている過程において不均一になります。
密度が不均一になると、密度が小さい領域には浮力が作用し、密度が大きい領域には逆の力が作用します。
その結果、液相がデンドライトの間に通り抜けるように流動が起こります。
例えば、鍋で湯を沸かしているときに鍋の中の水が動いていることを見たことがあると思います。
鍋の底で加熱された水の密度が相対的に小さくなり、浮力により浮上します。
同時に浮上した水と同量の温度が低い水が鍋の底に流動します。
鍋の中の水の温度差はせいぜい60Kくらいですが、わずかな密度差が目に見えるような流動を起こすことが分かると思います。
話を金属材料に戻すと、凝固している過程では鍋の水と同じように流動することがあり、この流動が濃度の不均一が生じさせることがあります。
では、ビデオの説明に移ります。
このSn-Bi合金では、Sn濃度が高いデンドライトが水平方向左から右に成長し、デンドライトの間の液相ではBiの濃度が高くなります。
Bi濃度が増加すると液相の密度が増加するため、試料全体では密度の不均一が生じます。
画面で左側のデンドライトの中の液相の密度は大きく、右側の液相の密度が小さい状態になり、半時計回りの流動が生じます。
左側のデンドライトの中では下向きに液相が流れる結果、左上から右下に黒い領域(Bi濃度が高い領域)が生じます。
これが、チャンネル型偏析と呼ばれるマクロ偏析です。
下向きに流れることは納得できても、なぜチャンネルになるのか疑問が残るかも知れません。
この疑問はもっともな疑問で、チャンネル型偏析の本質に迫っています!
話が変わりますが、ご飯が炊けたときにできる「カニ穴」をご存じでしょうか?
想像ですが、砂浜でカニが潜んでいる上にできる空気穴と類似しているので、こう呼ばれていると思います。
この穴は炊飯時の水蒸気の通り道です。
炊飯器でまじまじとカニ穴を観察すると、一見するとばらばらに見えますが、互いのカニ穴にはある程度の距離があり、なにか規則が存在するような感じがすると思います。
炊飯器の鍋の底から上部まで均一に水蒸気が通過するのであれば、カニ穴は残らないはずです。
水蒸気はどの米粒の周りにも同じように通過するよりも穴を開いた部分を通過する方が楽なので穴に集中します。
ただ、あまり集中すると効率的に通過できなくなるので、カニ穴から少し離れたところ(元のカニ穴の縄張りを荒らさないところ)に新たなカニ穴が生じます。
炊飯器のカニ穴を見て、ここの説明が納得してもらえれば、チャンネル偏析を理解できたも同然です。
炊飯器の米粒をデンドライト、水蒸気をBi濃度の高い液相(X線透過像で黒い部分)と置き換えてもらうと、液相はデンドライトの中で優先的に流れる領域(チャンネル)を作ってそこを流れますが、
水平方向の成長とともに別のチャンネルを作った方が効率的になります。
その結果、水平方向に成長している間に次々とチャンネル型のマクロ偏析が形成することになります。
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