Yasuda laboratory, MSE, Kyoto Univ.

静磁場と交流磁場を重畳させた金属融液の電磁浮遊

溶解した金属を冷却すると、固相が核生成して液相から固相に相変態します。これは、凝固と言われる現象です。 冷凍庫で水から氷を作る作業とまったく同じです。

冷却時に液相中のどこで固相が形成するか?多くの場合は、液相とそれを保持している容器との界面で核生成します。 例えば、グラスに注いだ炭酸飲料やビールの泡をよく観察すると、飲料とグラスの界面付近で泡が発生し、成長しながら浮上している様子を見ることができると思います。 もしかすると、核生成直後の気泡は小さくて肉眼では観察できず、浮上している途中から泡が見えるかも知れません。 よく磨いたグラスと素焼の瀬戸物の器にビールを注ぐと、後者の方が細かくクリーミーな泡ができると思います。つまり、泡の「核生成」は器の材質に影響されていることになります。 では、もし器がなければどうなるか?これが、金属融液を浮上させる動機とも言えます。

容器である固体壁と融液が接触していない場合、液相中で固相の核生成は相対的に困難になります。液相中に核生成を助かる不純物や混合物(介在物とも呼ばれる)がなければ、固相の核生成は困難になります。 このような状態にすると、冷却しても融点では核生成せず、液相が融点以下まで冷却された状態=過冷却状態が実現することがあります。ケースによりますが、融点から400Kくらい過冷却することもあります。 このような状態は、普通の冷却ではできない結晶構造を持つ固体や非常に細かい組織を持つ材料を製造できたり、融液の性質(高温物性)を調べたり、いろいろ魅力的な状態です。

Levitation apparatus    Effect of static magnetic field

地球上で非接触で金属融液を浮遊させる方法に、電磁浮遊法や静電浮遊法があります。前者で電気伝導性のある金属融液の電磁誘導を利用した浮遊であり、後者は荷電した試料を電場で浮遊させる方法です。 ここでは前者の電磁浮遊について紹介します。 金属融液に高周波電流を流したコイルから発生する交流磁場(磁場の強度・向きが時間変化する磁場)を印加すると、電気伝導性のある金属には電磁誘導により渦電流が流れます。この渦電流と印加した磁場によりローレンツ力が生じます。 コイル形状を調整しておくと、この電磁力は金属を浮上させる力とかき回す力(撹拌力)を発生させます。また、渦電流が流れるために発生するジュール熱で金属試料を加熱することもできます。浮上力と加熱をバランスすることができれば、 金属融液を浮遊させることができます。ただし、かきまぜる力も同時に発生しますので、浮遊した金属融液には流れが生じています。さらに、流れは時々刻々と変化しますので、液滴の形状も変化します。 したがって、電磁浮遊法は、地球上で非接触に金属融液を保持できるのですが、宇宙ステーションでの実験のように静かに浮遊させることができません。

静かに金属融液を浮上させたい、流動がない金属融液を非接触で保持したい。この希望を少しかなえるのが、静磁場と交流磁場を重畳させた電磁浮遊法です。静磁場は電磁ブレーキに使われるように、流動を抑制することが可能です。 正確には、磁場の向き、流れの方向、電気伝導性流体の配置などで決まりますが、条件が整えば電磁ブレーキとして作用します。 二つの磁場を重畳させると、静磁場の大きさは交流磁場の大きさに比べてずいぶん大きくできますので、重畳磁場の大きさはほぼ静磁場の大きさになります。静磁場の強度が大きいほど電磁ブレーキの効果も大きくなります。 一方、磁場が時間変化は交流磁場のみで決まりますので、電磁誘導により浮上力、撹拌力、ジュール熱による加熱は静磁場にかかわらず発生します。 もし、静磁場による電磁ブレーキ力が交流磁場による撹拌力より十分に大きくすることができれば、金属融液の撹拌は抑制できることになります。 実は、超伝導マグネットを使うとこの条件は簡単に満足して、金属融液を撹拌なしで浮上させることができます。

ただ、残念なことに、地球の自転のように、印加して磁場方向が回転軸となっている金属融液の回転には電磁ブレーキが作用しませんので、ぐるぐる回転して金属液滴は浮上することになります。 「ぐるぐる回転」は剛体球の回転です。つまり、パチンコ玉が回転しているだけで、「融液の流動はない」=「静的な浮上」と強弁させてください。 実際、このような剛体球の界面のみが残った浮上は強弁するだけのメリットがありますので

ビデオをご覧いただくと、融液ではなく、パチンコ玉が回転しているように見えてくるはずです

出典:対流、回転に帯する静磁場の効果
“Levitation of metallic melt by using the simultaneous imposition of the alternating and the static magnetic fields”, H. Yasuda, I. Ohnaka, Y. Ninomiya, R. Ishii, S. Fujita and K. Kishio, J. Cryst. Growth, 260(2004), 475-485. DOI: 10.1016/j.jcrysgro.2003.08.072

YouTubeで見る View in Let's solidify (youTube)



Let’s solidify 入門編にもどる