Overview of researches
科学研究費補助金基盤研究(S)「マイクロアロイングの科学と材料組織ベースの凝固ダイナミックスの構築」、科学研究費補助金基盤研究(S)「三次元時間分解・その場観察を基礎とした凝固組織のダイナミクスの構築と展開」などの研究助成の成果を含んでいます。
時間分解・その場観察
金属材料の凝固・結晶成長は、組織制御や欠陥の抑制、さらに材料特性の発現のため、理解が必要不可欠の過程です。しかし、高温、可視光に対して不透明であるため、
凝固している状態をありのまま観察するその場観察(in-situ)は困難でした。SPring-8などの放射光施設で利用可能な10keV以上の硬X線の単色光を利用し、密度や濃度の違いによる吸収差により組織形成過程を時間分解でその場観察できる手法を開発しています。金属材料中でデンドライトがどのように形成するか、変態の形態などを実際に知ることができれば、これまで想像の域を超えなかった凝固現象を理解でき、物理モデルの構築、シミュレーション結果の妥当性の検証などに応用でき、凝固・結晶プロセスの発展に寄与すると期待されます。
ビデオの説明:Sn-Bi合金の凝固過程でデンドライト(樹枝状晶)が形成される過程をX線により観察した例であり、色の違いはBi濃度の違いに対応しています。この手法により、Sn合金だけでなく、Al合金、Mg合金、Cu合金、Ni超合金、鉄鋼材料など社会に欠かせない金属材医療の凝固現象の観察が可能です。例えば、1500℃以上で鉄鋼材料が凝固する様子も「ありのまま」リアルタイムで観察することができます。
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時間分解三次元観察(4D-CT)
放射光施設で利用可能な高輝度、高平行度の硬X線単色光(10keV以上の単一波長のX線)により、金属材料の凝固の過程を時間分解で観察できるようになりました。X線の高輝度化、検出器(X線像を撮影するカメラ)の高感度・高速化により、日本・米国・ヨーロッパの放射光施設では、三次元で凝固組織形成を観察する試みが行われています。健康診断などで利用されるトモグラフィー(CT、断層撮影などと呼ばれる)を連続的に行い、観察対象を非破壊で時間分解観察する手法です。この手法は、「三次元+時間」から4D-CTとも呼ばれています。材料組織形成などの物理現象では、熱や物質の輸送をともない、2次元空間と三次元空間では形成される組織やその形成速度などに違いが生じます。そのため、時間分解で三次元観察する手法の開発が望まれてきました。さらに、三次元X線回折(3DXRD)の手法を組み合わせることができれば、三次元で組織変化を観察しながら、固相の結晶方位を三次元で明らかにすることも可能になります。従来の手法では獲得できなかった組織と結晶方位の三次元情報の時間変化は、組織形成機構の解明に役立ちます。
図の説明:上のふたつは、鉄鋼材料(Fe-C合金)のデンドライトのはじめての観察例です。X線イメージングは試料温度の影響をうけないため、1500℃付近の高温現象の観察が可能になっています。下のふたつは、Al-Cu合金の等軸晶の形成過程です。この試料では微細化剤と呼ばれるAl-Ti-B合金を微量に添加したAl合金において等軸晶組織と呼ばれる組織形成を0.5sごとに三次元観察した例であり、浮力による固相粒の浮上などもはじめて観察されています。出典:H.
Yasuda et al IOP Conf Ser Mater Sci Eng 529 (2019) 012023., T. Narumi et al J Jpn Inst Light
Metals 70 (2020) 339.
凝固組織形成のダイナミクス
材料の特性は、構成する元素の割合(組成)だけでなく、結晶の配列などの材料の組織にも依存し、材料を製造するプロセスでは材料の組織を制御することは重要です。融液からの凝固過程では、新しい固相の形成(核生成)、デンドライト(樹枝状結晶)の発達、デンドライトアーム(樹枝状晶の枝)の溶断など多様な現象が起こります。また、融液から結晶が成長するときには、潜熱と呼ばれる熱を発生して温度分布も変化します。融液と結晶の組成の違いにより成長している界面では元素のやりとりも起こり、濃度も不均一になります。さらに、温度・濃度が不均一になると自然対流(融液の流れ)も生じます。結晶の成長、熱の移動、物質の移動、流体の流れといった物理現象は独立ではなく、互いに影響を及ぼしながら材料組織が形成されます。このような動的な現象をX線イメージングなどで実証的に明らかにし、物理モデルの構築やシミュレーションなども駆使して、新しい凝固現象の制御手法、さらには革新的な凝固・結晶成長プロセスの開発を目指しています。
ビデオの説明:Al-Cu合金の凝固過程の観察例です。上部から下部に向かって温度が低下していますので、下部に結晶(固相)、上部に液相があります。試料を引き下げることで凝固が開始しますが、下部の結晶が成長するだけでなく、新しい結晶が生成(核生成)したり、樹枝状晶の枝が溶断して新たな結晶になったり、切れた結晶が浮力により浮く過程で溶解したり、様々な現象が起こった結果として、凝固組織が形成される様子です。
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鉄鋼材料の凝固現象
Fe(鉄)をベースとした鉄鋼材料は、もっとも生産されている材料であり、社会基盤を支えています。従来、0.5wt%(質量パーセント濃度)以下の炭素濃度のFe-C合金(炭素鋼)の凝固過程では、フェライト(体心立方構造、BCC)がまず凝固し、このフェライトと液相が反応してオーステナイト(面心立方構造、FCC)が生成すると考えられてきました。この反応は、「包晶反応」「包晶凝固」と呼ばれ、鉄鋼材料の凝固では常識中の常識とも言えました。関連する凝固現象についても、この「包晶反応」を前提に組み立てられてきました。一方、Feの融点は1537℃と高温であり、この反応を直接観察する手段は限られてきました。また、Feは高温から低温に冷却する過程で、BCC→FCC→BCCの同素変態があるため、室温まで冷却された組織から1500℃付近の凝固過程の現象を推定することも容易ではありませんでした。
先に紹介した時間分解その場観察、時間分解三次元観察の手法を鉄鋼材料の凝固過程に応用し、この「包晶凝固」の実態を明らかにしています。まず、これまで常識とも言えた「包晶凝固」は一般的な凝固条件では起こらず、フェライトからオーステナイトへマッシブ的に固相状態で変態することが明らかになりました。さらに、この固相変態では、微細なオーステナイト結晶粒を形成し、デンドライトの分断や粗大化などに寄与している可能性が示されています。マッシブ的な変態を学術的に解明し、新たなプロセス制御に結びつけることを目指しています。
ビデオの説明:液相からフェライトの凝固、フェライトからオーステナイトへの変態(マッシブ的に変態)をX線透過イメージングで撮影した結果。左側の原子の配置(模式図)を示しています。
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固液共存体のダイナミクス
凝固では固相と液相が共存する状態を必ず通過しますが、この固液共存状態(semisolid
state)と呼ばれます。製造される材料の組織を決定するだけでなく、組成の不均一である偏析や「割れ」といった欠陥が形成する過程です。融液の運動(変形)は流体力学、固相の運動(変形)は固体力学により記述されますが、固相と液相が共存した状態は液相と固相の性質を平均した状態では、特有の力学的な性質が現れます。例えば、「割れ」は鋳造時に材料に生じる代表的な欠陥ですが、流体である液相、お餅のような粘弾性体である融点直下の固相はそれぞれ単独で「割れる」ことはありません。混合した状態で、液相(流体)と固相(粒子)の運動の不一致がみかけの「割れ」を生じさせると考えられています。しかし、このような固液共存状態の変形について、実証されていない素過程も多く、学術を体系化し材料製造に応用するには不明な点も少なからずあります。結晶粒スケール(材料組織スケール)で変形過程を観察することができれば、固液共存領域に特有の変形機構の理解が進むと期待されます。そこで、X線を利用し、二次元観察(時間分解透過イメージング)、三次元観察(時間分解トモグラフィー、4D-CT)などの手法を用いて、変形機構の解明を目指しています。
図の説明:Al-Cu合金の固液共存状態の変形過程を三次元観察した一例です。図では、固相粒のみを抽出しています。→に示した領域に、液相の量が多くなった領域(せん断帯)が形成し、凝固後には偏析や割れにつながります。また、三次元X線回折(3DXRD)と呼ばれる手法を用いて、それぞれの固相粒の結晶方位も測定しています。出典:T.
Narumi et al, IOP Conf Ser Mater Sci Eng 861 (2020) 012065.
マイクロアロイングの科学
特定の元素を微量添加することで凝固した組織が劇的に変化し、その結果として力学的性質などが向上することがあります。例えば、自家用車のエンジンなどに用いられるAl−Si合金では100ppmオーダのSr(ストロンチウム)を添加することで、脆いSi相が微細化して力学的特性が向上します。また、Fe-C合金(鋳鉄)ではMg(マグネシム)やCe(セリウム)などの微量添加により脆いグラファイトが球状化することを利用し、ダクタイル鋳鉄・球状黒鉛鋳鉄と呼ばれる力学特性に優れた鋳造材料が製造されています。微量元素添加による材料特性の向上の例は多くあります。一方、学術面に注目すると、他の不純物として含まれる他の元素に比べても微量であるにも関わらず、特定の元素が組織形成に影響する事実を体系的に説明する理論・モデルはありません。研究上の課題の一つに、添加元素が微量である故に元素の存在位置や状態の把握がありました。放射光を利用した蛍光X線マッピングを利用して、微量元素の存在位置を実証し、微量元素の役割を明確にすることを目指しています。
図の説明:Al-Si合金の凝固組織には、Siを固溶したAl相とSi相が存在します。数10µmのSi相周辺の蛍光X線分析を行い、SiとSrの蛍光X線強度の関係を示しています。SrはAl相には存在せず、Si相中に存在することが明らかになりました。
磁場による高次配向
鉄やニッケルなど強磁性体と呼ばれる物質は磁石に吸い寄せられることがよく知られていますが、1円玉に使われているアルミニウムや水はどうでしょうか?実は、常磁性体と呼ばれるアルミニウムは磁石との間に引力、反磁性体と呼ばれる水には斥力が働いています。ただし、一般的な磁石では、その力は非常に小さく、実生活で感じることはできません。超電導磁石では、数T以上の強磁場を研究室でも容易に発生させることができ、このような環境では常磁性体や反磁性体に作用する力も顕在化し、材料を製造するプロセスにおいて応用できる可能性があります。例えば、ミクロンスケールの微小な結晶粒子を磁場により配向させて、異方的な材料を製造できる可能性があります。このような結晶の配列による異方性は、材料の特性の向上や新たな機能の発現につながります。このような磁場を使った材料プロセスの原理からプロセスの開発を目指しています。
ビデオの説明:回転しながら磁場の強さが変化する磁場中に、x、y、z方向の磁化率が違う結晶粒子が浮遊していると、磁場の変化に応じて、x、y、x方向がそろった結晶粒子の集合体を作製することができます。ビデオでは、磁石が磁場の向きと大きさ、結晶の軸は色によって区別しています。磁場が回転するにしたがい、結晶粒子が配列していきます。
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重畳磁場による金属融体の静的浮上
金属材料の融点は一般的に高温であり、融体を保持する容器(るつぼ)との反応が無視できないことが多くあります。特にチタン合金など活性な材料の融体を保持する方法には課題があります。また、金属融体を汚染なく自由に輸送することは、高清浄度の材料製造に不可欠な技術です。ひとつの解決策として、高周波磁場(数100kHzの電流をコイルに流して形成する磁場)による電磁浮遊法があります。この方法は、高周波磁場の能動的な機能である力学的作用、加熱作用を利用し、非接触で金属材料の融液を非接触で保持することができます。しかし、この方法では浮上した融液の形状は一定ではなく、内部まで激しい流動が生じることが静的な高温融体の保持の課題でした(左のビデオ)。金属流体の流動を抑制する受動的な機能を持つ静磁場に注目し、超伝導マグネットにより発生した静磁場(2テスラ、磁化した鉄の表面磁束密度と同程度であり、鉄芯を用いた一般的な電磁石の限界と言える磁束密度)を交流磁場に重畳した磁場により静的な実現しました(右のビデオ)。静的な金属融液の保持は、基礎研究だけでなく、活性金属の精錬や鋳造プロセスなど多様な応用の可能性があります。
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